【怪人二十面相】(三.是人?是魔?)江戶川亂步|日漢對照







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怪人二十面相(一.序章)


作品︰ 怪人二十面相(三.是人?是魔?)
作者︰ 江戶川亂步
翻譯︰ 小說熊 (日本小說翻譯室)
原文︰ 青空文庫【怪人二十面相】

その午後には、羽柴一家総動員をして、帰朝の壮一君を、羽田空港に出むかえました。

這天下午,羽柴家全家總動員到羽田機場迎接壯一回國。

飛行機からおりたった壮一君は、予期にたがわず、じつにさっそうたる姿でした。こげ茶色の薄がいとうを小わきにして、同じ色のダブル・ボタンの背広を、キチンと着こなし、折り目のただしいズボンが、スーッと長く見えて、映画の中の西洋人みたいな感じがしました。

從飛機下來的壯一就如大家所想一樣氣宇軒昂。腋下夾著深棕色的大衣,身穿同色而整潔的雙排扣西裝,熨貼平整的褲子顯得非常修長,感覺就如電影中的洋人一樣。

同じこげ茶色のソフトの下に、帽子の色とあまりちがわない、日にやけた赤銅色の、でも美しい顔が、にこにこ笑っていました。濃い一文字のまゆ、よく光る大きな目、笑うたびに見える、よくそろったまっ白な歯、それから、上くちびるの細くかりこんだ口ひげが、なんともいえぬなつかしさでした。写真とそっくりです。いや、写真よりいちだんとりっぱでした。

同樣是深棕色的氈帽下是一張跟帽子顏色差不多的臉龐。雖然曬成古胴色卻依然俊俏的臉龐上露著一臉的笑容。濃厚而筆直的眉毛、炯炯有神的大眼睛、微笑時露出的整齊而潔白的牙齒。唇上修剪得薄薄的小鬍子散發出一份說不出的懷舊感覺,外貌就跟相片裡的他一模一樣。不,應該說比相片裡的他還要帥氣得多。

みんなと握手をかわすと、壮一君は、おとうさま、おかあさまにはさまれて、自動車にのりました。壮二君は、おねえさまや近藤老人といっしょに、あとの自動車でしたが、車が走るあいだも、うしろの窓からすいて見えるおにいさまの姿を、ジッと見つめていますと、なんだか、うれしさがこみあげてくるようでした。

壯一跟各人握手以後乘上汽車,坐在父母二人間的座位上。壯二跟姊姊和近藤老管家坐在後面的汽車內。雖然這樣,壯二卻一直透過後面的車窗緊緊看著哥哥的身影,他從心底油然湧起一份喜悅之情。

帰宅して、一同が、壮一君をとりかこんで、何かと話しているうちに、もう夕方でした。食堂には、おかあさまの心づくしの晩さんが用意されました。

回家以後,大家都圍著壯一跟他傾談。說著說著已經是黃昏。母親正在飯廳內用心地準備當天的晚餐。

新しいテーブル・クロスでおおった、大きな食卓の上には、美しい秋の盛り花がかざられ、めいめいの席には、銀のナイフやフォークが、キラキラと光っていました。きょうは、いつもとちがって、チャンと正式に折りたたんだナプキンが出ていました。

舖上全新枱布的大餐桌上擺放著秋日盛放的美麗花奔,各人的坐位上都放著閃閃發亮的刀叉。跟平日不同,今天擺放的餐巾摺疊得尤其正規。

食事中は、むろん壮一君が談話の中心でした。めずらしい南洋の話がつぎからつぎと語られました。そのあいだには、家出以前の、少年時代の思い出話も、さかんにとびだしました。

吃飯時的話題當然也是圍繞著壯一。難得一聽的南洋趣聞,壯一一件接一件的娓娓道來。當中也歡快地夾雜他出走以前的少年往事。

「壮二君、きみはその時分、まだあんよができるようになったばかりでね、ぼくの勉強部屋へ侵入して、机の上をひっかきまわしたりしたものだよ。いつかはインキつぼをひっくりかえして、その手で顔をなすったもんだから、黒んぼうみたいになってね、大さわぎをしたことがあるよ。ねえ、おかあさま。」

「壯二,那時你才剛懂走路。有一天你闖進我的温習室把我的書桌弄得一圑糟。更不知何時把墨水瓶打翻,把沾著墨汁的手直往臉上擦,弄得像個黑人小童一樣。真是鬧得天翻地覆。媽,你還記得嗎?」

おかあさまは、そんなことがあったかしらと、よく思いだせませんでしたけれど、ただうれしさに、目に涙をうかべて、にこにことうなずいていらっしゃいました。

雖然母親不太肯定是否發生過這麽回事,但因為太高興了,所以也只是眼泛淚光的笑著點頭。

ところがです、読者諸君、こうした一家の喜びは、あるおそろしいできごとのために、じつにとつぜん、まるでバイオリンの糸が切れでもしたように、プッツリとたちきられてしまいました。

各位讀者,這家人的歡愉氣氛這時卻被可怕的事情突然打斷,就如小提琴的弦線突然斷掉一樣。

なんという心なしの悪魔でしょう。親子兄弟十年ぶりの再会、一生に一度というめでたい席上へ、そのしあわせをのろうかのように、あいつのぶきみな姿が、もうろうと立ちあらわれたのでありました。

那傢伙真是個無情的魔鬼。在家人闊別十年後難得重逢的晚餐桌上,他就像對這幸福作咀咒一樣朦朧地展現他那可怕的身影。

思い出話のさいちゅうへ、秘書が一通の電報を持ってはいってきました。いくら話にむちゅうになっていても、電報とあっては、ひらいて見ないわけにはいきません。

正當大家熱烈傾談著舊日往事時,壯太郎的秘書拿著一通電報走進來。無論傾談得多熱烈,收到電報也總不能不打開看看。

壮太郎氏は、少し顔をしかめて、その電報を読みましたが、すると、どうしたことか、にわかにムッツリとだまりこんでしまったのです。

壯太郎微微皺起眉頭把電報讀完,然後變得沉默起來。

「おとうさま、何かご心配なことでも。」

壮一君が、目ばやくそれを見つけてたずねました。

「爸,發生了甚麼事?」壯一眼尖,看到這狀況後問道。

「ウン、こまったものがとびこんできた。おまえたちに心配させたくないが、こういうものが来るようでは、今夜は、よほど用心しないといけない。」

そういって、お見せになった電報には、

「コンヤショウ一二ジ オヤクソクノモノウケトリニイク 二〇」

とありました。二〇というのは、「二十面相」の略語にちがいありません。「ショウ一二ジ」は、十二時で、午前零時かっきりに、ぬすみだすぞという、確信にみちた文意です。

「嗯,真是天降橫禍。本不想讓你們擔心,但這人這就要來,我們今晚不得不格外留神。」

壯太郎說完以後便把電報拿給壯一看,上面寫著:「今夜正一二時來取約定之物 二十」

二十沒錯就是「二十面相」的縮寫,而「正一二時」就是「十二時正」的意思。字裡行間看出他充滿信心,會在午夜十二時整點把東西偷走。

「この二〇というのは、もしや、二十面相の賊のことではありませんか。」

壮一君がハッとしたように、おとうさまを見つめていいました。

「這個『二十』難道就是二十面相那賊人?」壯一吃驚地望著父親問道。

「そうだよ。おまえよく知っているね。」

「對,就是他。你也知道不少呢。」

「下関上陸以来、たびたびそのうわさを聞きました。飛行機の中で新聞も読みました。とうとう、うちをねらったのですね。しかし、あいつは何をほしがっているのです。」

「我在下關上岸以後就多次聽到他的傳聞。乘坐飛機時也看過有關他的報導。他終於瞄上了我們這家!話說回來,那傢伙想要的是甚麼東西?」

「わしは、おまえがいなくなってから、旧ロシア皇帝の宝冠をかざっていたダイヤモンドを、手に入れたのだよ。賊はそれをぬすんでみせるというのだ。」

「在你不在的時候,我得到了舊日俄羅斯國皇皇冠上的鑽石。賊人想偷的就是這些鑽石。」

そうして、壮太郎氏は、「二十面相」の賊について、またその予告状について、くわしく話して聞かせました。

壯太郎把賊人「二十面相」和那預告字條的事詳細告訴了壯一。

「しかし、今夜はおまえがいてくれるので、心じょうぶだ。ひとつ、おまえとふたりで、宝石の前で、寝ずの番でもするかな。」

「但今晚你在這裡,我就安心得多了。今晚我倆來看守寶石好不好?」

「ええ、それがよろしいでしょう。ぼくは腕力にかけては自信があります。帰宅そうそうお役にたてばうれしいと思います。」

「好的。動粗我還是挺有信心。假若這次回家能幫上忙就真是太好了。」

たちまち、邸内にげんじゅうな警戒がしかれました。青くなった近藤支配人のさしずで、午後八時というのに、もう表門をはじめ、あらゆる出入り口がピッタリとしめられ、内がわからがおろされました。

轉瞬間,大宅已經變得戒備森嚴。在戰戰兢兢的近藤管家指揮下,才八時就已經從裡邊把從大門以至所有的出入口緊緊鎖上。

「今夜だけは、どんなお客さまでも、おことわりするのだぞ。」

老人が召使いたちに厳命しました。

「今天晚上,無論那位客人都不能讓他進來。」老管家向傭人下達嚴令。

夜をして、三人の非番警官と、三人の秘書と、自動車運転手とが、手わけをして、各出入り口をかため、あるいは邸内を巡視する手はずでした。

三名休班警官、三名秘書和司機計劃分頭行動,徹夜守在各個出入口前,又或在宅內四處巡視。

羽柴夫人と早苗さんと壮二君とは、早くから寝室にひきこもるようにいいつけられました。

羽柴夫人、早苗和壯二也老早被吩咐待在睡房之內。

大ぜいの使用人たちは、一つの部屋にあつまって、おびえたようにボソボソとささやきあっています。

大群傭人聚集在某個房間內,徬徨地竊竊私語。

壮太郎氏と壮一君は、洋館の二階の書斎に籠城することになりました。書斎のテーブルには、サンドイッチとぶどう酒を用意させて、徹夜のかくごです。

壯太郎跟壯一卻是閉門留守在書房之內。書房餐桌上擺放著一些三明治和葡萄酒,他們已經做好了徹夜留守的心理準備。

書斎のドアや窓にはみな、外がわからあかぬように、かぎや掛け金がかけられました。ほんとうにアリのはいいるすきまもないわけです。

為了不讓賊人從外進來,書房的門窗都緊緊鎖上,可說得上是滴水不入。

さて、書斎に腰をおろすと、壮太郎氏が苦笑しながらいいました。

「少し用心が大げさすぎたかもしれないね。」

壯太郎坐在椅上苦笑說道:「或許我們真的有點小題大作。」

「いや、あいつにかかっては、どんな用心だって、大げさすぎることはありますまい。ぼくはさっきから、新聞のとじこみで、『二十面相』の事件を、すっかり研究してみましたが、読めば読むほど、おそろしいやつです。」

壮一君は真剣な顔で、さも不安らしく答えました。

「不,對付這傢伙,如何戒備也不算過份。我剛才認真研讀了『二十面相』案件的新聞合訂本,愈看就愈覺這人可怕。」壯一一臉認真,看來很不安地說。

「では、おまえは、これほどげんじゅうな防備をしても、まだ、賊がやってくるかもしれないというのかね。」

「我們的戒備這麼森嚴,你認為他仍然會來嗎?」

「ええ、おくびょうのようですけれど、なんだかそんな気がするのです。」

「嗯,聽來是我胆小,但我總覺得他仍然會來。」

「だが、いったいどこから? ……賊が宝石を手に入れるためには、まず、高い塀を乗りこえなければならない。それから、大ぜいの人の目をかすめて、たとえここまで来たとしても、ドアを打ちやぶらなくてはならない。そして、わたしたちふたりとたたかわなければならない。しかも、それでおしまいじゃないのだ。宝石は、ダイヤルの文字のくみあわせを知らなくては、ひらくことのできない金庫の中にはいっているのだよ。いくら二十面相が魔法使いだって、この四重五重の関門を、どうしてくぐりぬけられるものか。ハハハ……。」

「然而他又能怎樣進來?…… 若要來取寳石,他就得先越過高高圍牆,再避過眾人耳目來到這裡。即使來到這裡,他還得把房門打破然後擊倒我倆。這樣還不夠,這個放寳石的保險箱,不知道密碼就根本沒法打開。這個二十面相即使懂法術,我看他也無法闖過這重重關卡吧。哈哈!哈哈! 」

壮太郎氏は大きな声で笑うのでした。でも、その笑い声には、何かしら空虚な、からいばりみたいなひびきがまじっていました。

儘管壯太郎大笑起來,但笑聲中總覺夾雜著幾分虛張的聲勢。

「しかし、おとうさん、新聞記事で見ますと、あいつはいく度も、まったく不可能としか考えられないようなことを、やすやすとなしとげているじゃありませんか。金庫に入れてあるから、大じょうぶだと安心していると、その金庫の背中に、ポッカリと大穴があいて、中の品物は、何もかもなくなっているという実例もあります。それからまた、五人のくっきょうな男が、見はりをしていても、いつのまにか、ねむり薬を飲まされて、かんじんのときには、みんなグッスリ寝こんでいたという例もあります。

あいつは、その時とばあいによって、どんな手段でも考えだす知恵を持っているのです。」

「爸,從報章報導來看,難道這人不是多次輕輕鬆鬆的就把不可能的事情辦到嗎?曾經有一案例,事主把物品放進保險箱內就認為安心沒問題,但最終保險箱卻在後面被人開了個大洞,裡面的東西全都不翼而飛。還有一次,事主找來五名大漢一同看守,但他們卻被人下迷藥迷魂了,在重要關頭時全都呼呼大睡起來。

這傢伙就是擁有這樣的智慧,可以根據不同時間和環境想出不同的犯案手法。」

「おいおい壮一、おまえ、なんだか、賊を賛美してるような口調だね。」

壮太郎氏は、あきれたように、わが子の顔をながめました。

「喂喂!壯一,你的語氣怎麼像是在稱讚這賊人?」壯太郎一臉不滿地凝視兒子。

「いいえ、賛美じゃありません。でも、あいつは研究すればするほど、おそろしいやつです。あいつの武器は腕力ではありません。知恵です。知恵の使い方によっては、ほとんど、この世にできないことはないですからね。」

「不,我不是在稱讚他。但當我愈研究就愈覺這傢伙可怕。這傢伙的武器不是武力而是智慧。只要懂得如何運用智慧,世上可是沒有甚麼事是辦不來的。」

父と子が、そんな議論をしているあいだに、夜はじょじょにふけていき、少し風がたってきたとみえて、サーッと吹きすぎる黒い風に、窓のガラスがコトコトと音をたてました。

隨著父子二人的議論,夜已更深、風也起了。強風吹在玻璃窗上,響起「咚咚!…咚咚!」的響聲。

「いや、おまえがあんまり賊を買いかぶっているもんだから、どうやらわしも、少し心配になってきたぞ。ひとつ宝石をたしかめておこう。金庫の裏に穴でもあいていては、たいへんだからね。」

「呀,你如此抬舉賊人,真的讓我也有點擔心起來。讓我們確認一下寳石是否還在裡面吧。要是保險箱後開了個洞就糟糕了。」

壮太郎氏は笑いながら立ちあがって、部屋のすみの小型金庫に近づき、ダイヤルをまわし、とびらをひらいて、小さな赤銅製の小箱をとりだしました。そして、さもだいじそうに小箱をかかえて、もとのイスにもどると、それを壮一君とのあいだの丸テーブルの上におきました。

壯太郎笑著站起來,走到房中一角的保險箱旁。他轉動保險箱轉盤,然後把門打開拿出一個銅製盒子。他小心翼翼地抱著盒子回到剛才的椅子上坐下,把盒子放在他與壯一中間的圓形餐桌上。

「ぼくは、はじめて拝見するわけですね。」

壮一君が、問題の宝石に好奇心を感じたらしく、目を光らせて言います。

「你的意思是讓我親眼一看嗎?」壯一看來對這些涉事的寳石非常好奇,兩眼發光地說。

「ウン、おまえには、はじめてだったね。さあ、これが、かつてロシア皇帝の頭にかがやいたことのあるダイヤだよ。」

「對,讓我給你看看吧。這就是昔日在俄羅斯國皇頭上閃閃發亮的鑽石。」

小箱のふたがひらかれますと、目もくらむような虹の色がひらめきました。大豆ほどもある、じつにみごとなダイヤモンドが六個、黒ビロードの台座の上に、かがやいていたのです。

壯太郎打開盒子,盒內閃耀著眩目的虹光。六顆如黃豆般大、美麗絕倫的鑽石在黑天鵝絨的底座上熠熠生輝。

壮一君が、じゅうぶん観賞するのを待って、小箱のふたがとじられました。

壯太郎待壯一好好觀賞完畢以後,再次蓋上盒子。

「この箱は、ここへおくことにしよう。金庫なんかよりは、おまえとわしと、四つの目でにらんでいるほうが、たしかだからね。」

「我們就把盒子放在這裡。我倆二人四目看守,總比放回保險箱裡穩妥。」

「ええ、そのほうがいいでしょう。」

「嗯,確實比較穩妥。」

ふたりはもう、話すこともなくなって、小箱をのせたテーブルを中に、じっと、顔を見あわせていました。

二人沒再說話,只是在放著盒子的餐桌前一聲不響地互相對望。

ときどき、思いだしたように、風が窓のガラス戸を、コトコトいわせて吹きすぎます。どこか遠くのほうから、はげしく鳴きたてる犬の声が聞こえてきます。

風偶爾打在窗上發出「咚咚」的響聲。遠方傳來厲害的狗吠聲。

「何時だね。」

「現在幾點了?」

「十一時四十三分です。あと、十七分……。」

壮一君が腕時計を見て答えると、それっきり、ふたりはまた、だまりこんでしまいました。見ると、さすが豪胆な壮太郎氏の顔も、いくらか青ざめて、ひたいにはうっすら汗がにじみだしています。壮一君も、ひざの上に、にぎりこぶしをかためて、歯をくいしばるようにしています。

「十一時四十三分。還有十七分鐘 …」壯一看了看手錶後說道。

二人又再次沉默起來。再看他們,即使勇敢如壯太郎,這時也是面色發青,額上微微沁出幾滴冷汗。壯一也都手握拳頭放在腿上,把牙關咬得死死的。

ふたりのづかいや、腕時計の秒をきざむ音までが聞こえるほど、部屋のなかはしずまりかえっていました。

房間內寂靜無聲,就連二人的呼吸聲和手錶秒針的跳動聲也都可以聽到。

「もう何分だね。」

「還有多少分鐘?」

「あと十分です。」

「還有十分鐘。」

するとそのとき、何か小さな白いものが、じゅうたんの上をコトコト走っていくのが、ふたりの目のすみにうつりました。おやっ、はつかネズミかしら。

這時,他們二人瞥見一件白而細小的東西在地氈上「咯嗒咯嗒」的走過。啊!難道是白老鼠?

壮太郎氏は思わずギョッとして、うしろの机の下をのぞきました。白いものは、どうやら机の下へかくれたらしく見えたからです。

壯太郎嚇了一跳,不禁瞄向身後桌子的下方,他好像看到那白色的東西躲到了桌子下面。

「なあんだ、ピンポンの玉じゃないか。だが、こんなものが、どうしてころがってきたんだろう。」

机の下からそれを拾いとって、ふしぎそうにながめました。

「甚麼?怎麼會是個乒乓球?它是怎樣滾到這裡來的?」壯太郎俯身往桌下拾起乒乓球,一臉疑惑的凝望著它。

「おかしいですね。壮二君が、そのへんの棚の上におきわすれておいたのが、何かのはずみで落ちたのじゃありませんか。」

「真奇怪。或許是壯二把乒乓球放在那邊的架子後忘了帶走,不知怎的就掉了下來。

「そうかもしれない……。だが時間は?」

「或許是吧 … 對了,現在幾點?」

壮太郎氏の時間をたずねる回数が、だんだんひんぱんになってくるのです。

壯太郎詢問時間也變得愈來愈頻密。

「あと四分です。」

「還有四分鐘。」

ふたりは目と目を見あわせました。秒をきざむ音がこわいようでした。

二人四目對望,就像每聲的秒針跳動聲都來得非常可怕。

三分、二分、一分、ジリジリと、その時がせまってきます。二十面相はもう塀を乗りこえたかもしれません。今ごろは廊下を歩いているかもしれません……。いや、もうドアの外に来て、じっと耳をすましているかもしれません。

三分鐘,兩分鐘,一分鐘,時間已經愈來愈近。二十面相這時可能已經越過了圍牆,走在大宅裡的走廊上 … 不,或許他已經來到這門外,靜靜地探聽著房內的狀況。

ああ、今にも、今にも、おそろしい音をたてて、ドアが破壊されるのではないでしょうか。

或許馬上就要響起可怕的巨響,然後門就這樣被打破!

「おとうさん、どうかなすったのですか。」

「爸,你沒事吧?」

「いや、いや、なんでもない。わしは二十面相なんかに負けやしない。」

「我沒事。我是不會輸給二十面相的。」

そうはいうものの、壮太郎氏は、もうまっさおになって、両手でひたいをおさえているのです。

壯太郎雖然這樣說,但卻是一臉蒼白,用雙手按著額頭。

三十秒、二十秒、十秒と、ふたりの心臓の鼓動をあわせて、息づまるようなおそろしい秒時が、すぎさっていきました。

三十秒,二十秒,十秒 … 二人的心跳都同樣地跳得厲害,令人窒息的可怕一刻亦在這時過去了。

「おい、時間は?」

壮太郎氏の、うめくような声がたずねます。

「啊!現在幾點?」壯太郎像在呻吟般問道。

「十二時一分すぎです。」

「十二時零一分。」

「なに、一分すぎた? ……アハハハ……、どうだ壮一、二十面相の予告状も、あてにならんじゃないか。宝石はここにちゃんとあるぞ。なんの異状もないぞ。」

「怎麼,已經過了一分鐘嗎? 哈哈 … 壯一,你看,二十面相即使送來預告字條,但我們卻還是平安渡過。寶石還好好放在這裡,安然無羔。」

壮太郎氏は、勝ちほこった気持で、大声に笑いました。しかし壮一君はニッコリともしません。

壯太郎懷著勝利的自豪感大笑起來。然而,壯一卻沒有露出絲毫笑容。」

「ぼくは信じられません。宝石には、はたして異状がないでしょうか。二十面相は違約なんかする男でしょうか。」

「真的叫人難以置信。真的沒問題嗎?二十面相是個言而不行的男人嗎?」

「なにをいっているんだ。宝石は目の前にあるじゃないか。」

「你說甚麼?寳石不是好好放在我們面前嗎?」

「でも、それは箱です。」

「那個只是盒子而己。」

「すると、おまえは、箱だけがあって、中身のダイヤモンドがどうかしたとでもいうのか。」

「你是要打開盒子看看裡面的鑽石還在嗎?」

「たしかめてみたいのです。たしかめるまでは安心できません。」

「我想確認一下。不確認實在難以安心。」

壮太郎氏は思わずたちあがって、赤銅の小箱を、両手でおさえつけました。壮一君も立ちあがりました。ふたりの目が、ほとんど一分のあいだ、何か異様ににらみあったまま動きませんでした。

壯太郎不其然站起來,雙手按著銅製盒子。壯一也站了起來。在差不多一分鐘的時間內,二人一動也沒動,奇怪地互望著對方。

「じゃ、あけてみよう。そんなばかなことがあるはずはない。」

「好,我們這就打開盒子。此等荒謬的事情是不可能發生的。」

パチンと小箱のふたがひらかれたのです。

壯太郎「咔嚓」一聲打開了盒子。

 と、同時に壮太郎氏の口から、

「アッ。」というさけび声が、ほとばしりました。

與此同時,壯太郎臉漲得通紅,「呀!」的一聲大叫起來。

ないのです。黒ビロードの台座の上は、まったくからっぽなのです。由緒深い二百万円のダイヤモンドは、まるで蒸発でもしたように消えうせていたのでした。

己經不見了。黑天鵝絨的底座上現在已經空空如也。深具歷史意義的二百萬日元鑽石就如蒸發了一樣變得無影無踪。





第三部份完

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怪人二十面相(一.序章)
怪人二十面相(二.捕獸器)
怪人二十面相(三.是人?是魔?)
怪人二十面相(四.魔術師)
怪人二十面相(五.池塘中)
怪人二十面相(六.樹上的怪人)
怪人二十面相(七.壯二的下落)
怪人二十面相(八.少年偵探)
怪人二十面相(九.佛像的奇跡)
怪人二十面相(十.陷阱)
怪人二十面相(十一.七件工具)

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