【怪人二十面相】(十.陷阱)江戶川亂步|日漢對照





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怪人二十面相(一.序章)


作品︰ 怪人二十面相(十.陷阱)
作者︰ 江戶川亂步
翻譯︰ 小說熊 (日本小說翻譯室)
原文︰ 青空文庫【怪人二十面相】

さすがの怪盗も、これにはをつぶしました。相手が人間ならばいくらピストルを向けられてもおどろくような賊ではありませんが、古い古い鎌倉時代の観音さまが、いきなり動きだしたのですから、びっくりしないではいられません。

即使是這樣厲害的怪盜,這時也嚇得膽顫心驚。假若對方是人,即使如何被對方用槍指嚇,自己也不會輕易被嚇倒。然而突然動起來的卻是一座鎌倉時期的古老觀音像,這實在令他大吃一驚。

びっくりしたというよりも、ゾーッと心の底からおそろしさがこみあげてきたのです。こわい夢をみているような、あるいはお化けにでも出くわしたような、なんともえたいのしれぬ恐怖です。

但與其說是大吃一驚,倒不如說是從心底湧出的一份寒意。莫名的恐懼令他猶如置身惡夢一樣,亦猶如遇上妖怪一樣。

大胆不敵の二十面相が、かわいそうに、まっさおになって、たじたじとあとじさりをして、ごめんなさいというように、ろうそくを床において、両手を高くあげてしまいました。

天不怕地不怕的二十面相被嚇得臉無血色,畏縮地往後退了兩三步。他把蠟燭放在地上,向觀音舉起雙手示意求饒。

すると、またしても、じつにおそろしいことがおこったのです。観音さまが、れんげの台座からおりて、床の上に、ヌッと立ちあがったではありませんか。そして、じっとピストルのねらいをさだめながら、一歩、二歩、三歩、賊のほうへ近づいてくるのです。

令人更吃驚的是,觀音這時突然站起來走下蓮座,用槍指向怪盜,然後一步、兩步、三步的向他逼近。

「き、きさま、いったい、な、何者だっ。」

二十面相は、追いつめられたけもののような、うめき声をたてました。

「你…你到底是何方神聖?」二十面相像被追趕的野獸一樣發出呻吟。

「わしか、わしは羽柴家のダイヤモンドをとりかえしに来たのだ。たった今、あれをわたせば、一命を助けてやる。」

おどろいたことには、仏像がものをいったのです。おもおもしい声で命令したのです。

「我嗎?我是來取回羽柴家的鑽石的。假若現在交出鑽石,我還可以饒你一命。」真令人吃驚,佛像竟然開口說話,沉穩實在的向賊人發號施令。

「ハハア、きさま、羽柴家のまわしものだな。仏像に変装して、おれのかくれがをつきとめに来たんだな。」

「哈哈!原來是羽柴家的人。竟然假扮佛像來查探我的巢穴。」

相手が人間らしいことがわかると、賊は少し元気づいてきました。でも、えたいのしれぬ恐怖が、まったくなくなったわけではありません。というのは、人間が変装したのにしては、仏像があまり小さすぎたからです。立ちあがったところを見ると、十二―三の子どもの背たけしかありません。その一寸法師みたいなやつが、落ちつきはらって、老人のようなおもおもしい声でものをいっているのですから、じつになんとも形容のできないきみ悪さです。

對方看來是人,怪盜也不像剛才那麼驚慌。然而莫名的恐懼卻不是一下子完全消失。因為雖說佛像是人假扮,但體型也實在太小。從站起來的身高看,大不了就是個十二三歲小孩的身高。這猶如一寸法師的傢伙,談吐沉穩,老氣橫秋,確實令人產生一份難以形容的恐懼。

「で、ダイヤモンドをわたさぬといったら?」

賊はおそるおそる、相手の気をひいてみるように、たずねました。

「要是不交出來又怎樣?」怪盜戰戰兢兢地試探著說。

「おまえの命がなくなるばかりさ。このピストルはね、いつもおまえが使うような、おもちゃじゃないんだぜ。」

観音さまは、このご隠居然とした白髪の老人が、そのじつ二十面相の変装姿であることを、ちゃんと知りぬいているようすでした。たぶん、さいぜんの手下の者との会話をもれ聞いて、それと、察したのでしょう。

「那你就只有死路一條。這手槍可不是你一向使用的玩具手槍啊。」觀音似乎已經清楚這位隱居的白髮老翁其實是二十面相所扮。這大概是當老人跟手下說話時發現的。

「おもちゃでないというしょうこを、見せてあげようか。」

そういったかと思うと、観音さまの右手がヒョイと動きました。

と同時に、ハッととびあがるようなおそろしい物音。部屋のいっぽうの窓ガラスがガラガラとくだけ落ちました。ピストルからは、実弾がとびだしたのです。

「這可不是玩具。需要我證明一下嗎?」話音未落,觀音的右手突然一動,同時房間內響起「呯」的一聲巨響,房間一邊的窗戶「哇啦哇啦」的碎裂,手槍發射出來的確實是實彈。

一寸法師の観音さまは、めちゃめちゃにとびちるガラスの破片を、チラと見やったまま、すばやくピストルのねらいをもとにもどし、インド人みたいなまっ黒な顔で、うすきみ悪くニヤニヤと笑いました。

猶如一寸法師的觀音瞄了一眼撒滿地上的玻璃碎片,瞬間又把槍口指向怪盜。跟印度人相像的全黑臉孔上露出令人看了發毛的冷笑面容。

見ると賊の胸につきつけられたピストルの筒口からは、まだうす青い煙がたちのぼっています。

再看之下,對準怪盜胸口的槍口仍然冒出淡淡輕煙。

二十面相は、この黒い顔をした小さな怪人物の肝ったまが、おそろしくなってしまいました。

二十面相確實為這黑臉小怪人的胆量而感到驚訝。

こんなめちゃくちゃならんぼう者は、何をしだすかしれたものではない。ほんとうにピストルでうちころす気かもしれぬ。たといその弾丸はうまくのがれたとしても、このうえあんな大きな物音をたてられては、付近の住民にあやしまれて、どんなことになるかもしれぬ。

這樣胡亂行事的人,確實難以預料他會幹出甚麼來。說不定他真的準備用槍射殺自己。到時即使自己能避過子彈,伴隨的巨響也肯定令附近居民起疑,事情最終發展成怎樣也實屬難料。

「しかたがない。ダイヤモンドはかえしてやろう。」

「真拿你沒辦法,鑽石就還你吧。」

賊はあきらめたようにいいすてて、部屋のすみの大きな机の前へ行き、机の足をくりぬいたかくし引きだしから、六個の宝石をとりだすと、てのひらにのせて、カチャカチャいわせながらもどってきました。

怪盜死了心似的說,說罷走到房間一角的桌子前,旋開桌腳從暗格中拿出六顆鑽石盛在掌上,再把鑽石把弄得嘩啦作響的走回來。

ダイヤモンドは、賊の手の中でおどるたびごとに、床のろうそくの光をうけて、ギラギラと虹のようにかがやいています。

每當鑽石在怪盜手心滾動,都因為地上的燭光照射而閃出彩虹一樣的光芒。

「さあ、これだ。よくしらべて受けとりたまえ。」

「就是這些鑽石。你查收吧。」

一寸法師の観音さまは、左手をのばして、それを受けとると、老人のようなしわがれ声で、笑いました。

猶如一寸法師的觀音伸出左手接過鑽石,發出跟老人一樣的沙啞笑聲。

「ハハハ……、感心、感心、さすがの二十面相も、やっぱり命はおしいとみえるね。」

「哈哈,佩服佩服。看來即使厲害如二十面相,也還是覺得生命可貴吧。」

「ウム、ざんねんながら、かぶとをぬいだよ。」

賊は、くやしそうにくちびるをかみながら、

「ところで、いったいきみは何者だね。この二十面相をこんなめにあわせるやつがあろうとは、おれも意外だったよ。後学のために名まえを教えてくれないか。」

「嗯,真可惜。我投降了。」怪盜不甘心似的咬著嘴唇,又再說道:「話說回來,閣下到底是何方神聖。我實在想不到竟然有人能令我二十面相吃虧。閣下高姓大名,不知可否賜教?」

「ハハハ……、おほめにあずかって、光栄のいたりだね。名まえかい。それはきみが牢屋へはいってからのおたのしみに残しておこう。おまわりさんが教えてくれることだろうよ。」

観音さまは、勝ちほこったようにいいながら、やっぱり、ピストルをかまえたまま、部屋の出口のほうへ、ジリジリとあとじさりをはじめました。

「哈哈!能夠獲得閣下讚賞實在是我的榮幸。你問我的名字?這就留待你進牢房後再問獄警吧。」觀音自豪地說著的同時,依舊用手槍對準怪盜,謹慎地向房間的出口緩緩後退。

賊の巣くつはつきとめたし、ダイヤモンドはとりもどしたし、あとはぶじにこのあばらやを出て、付近の警察へかけこみさえすればよいのです。

怪盜的巢穴已經查明,鑽石亦已經取回,這時只要安全離開這所破房子,再趕往附近警署就大功告成。

この観音さまに変装した人物が何者であるかは、読者諸君、とっくにご承知でしょう。小林少年は怪盗二十面相を向こうにまわして、みごとな勝利をおさめたのです。そのうれしさは、どれほどでしたろう。どんなおとなもおよばぬ大手がらです。

扮成觀音的人到底是誰,相信各位讀者早已清楚明白。少年偵探小林跟怪盜周旋角力,最終勝出漂亮一仗。這時的他真的不知何等高興。這可是成年人也無法立下的大功。

ところが、彼が今、二―三歩で部屋を出ようとしていたとき、とつぜん、異様な笑い声がひびきわたりました。見ると、老人姿の二十面相が、おかしくてたまらぬというように、大口あいて笑っているのです。

然而,當還有兩三步便離開房間時,房間內突然響起怪異的笑聲。一看之下,老者模樣的二十面相,這時像忍不住笑似的張口大笑起來。

ああ、読者諸君、まだ安心はできません。名にしおう怪盗のことです。負けたとみせて、そのじつ、どんな最後の切り札を残していないともかぎりません。

各位讀者,這時還不能掉以輕心。他可是名聲響噹噹的怪盜。表面看來雖然已經認輸,但實際上留有一手也不是沒可能。

「おやっ、きさま、何がおかしいんだ。」

観音さまに化けた少年は、ギョッとしたように立ちどまって、ゆだんなく身がまえました。

「啊,有甚麼好笑?」扮成觀音的少年嚇了一跳停下腳步,不敢怠慢地面向怪盜擺好架勢。

「いや、しっけい、しっけい、きみがおとなのことばなんか使って、あんまりこまっちゃくれているもんだから、つい吹きだしてしまったんだよ。」

賊はやっと笑いやんで、答えるのでした。

「對不起,沒甚麽。我只是見你小小年紀卻扮大人來說話,所以忍不住笑起來。」怪盜終於停住笑聲。

「というのはね。おれはとうとう、きみの正体を見やぶってしまったからさ。この二十面相の裏をかいて、これほどの芸当のできるやつは、そうたんとはないからね。じつをいうと、おれはまっ先に明智小五郎を思いだした。

だが、そんなちっぽけな明智小五郎なんてありゃしないね。きみは子どもだ。明智流のやり方を会得した子どもといえば、ほかにはない。明智の少年助手の小林芳雄とかいったっけな。ハハハ……、どうだ、あたったろう。」

「我為何覺得好笑?那是因為我終於看穿你的真正身份了。能夠乘我不備在我二十面相面前使出此等絶招的人,世上實在沒有幾人。說實話,我最初還想是明智小五郎。

然而,明智小五郎的身型不可能如此細小,你分明是個小孩。說到能夠掌握明智小五郎手法的小孩,除了他的少年助手小林芳雄外就沒有別人。哈哈!怎麼樣?我猜對了吧。」

観音像に変装した小林少年は、賊の明察に、内心ギョッとしないではいられませんでした。しかし、よく考えてみれば、目的をはたしてしまった今、相手に名まえをさとられたところで、少しもおどろくことはないのです。

扮成觀音的小林,不禁為怪盜的洞察力而感到吃驚。但細心一想,既然目標已經達成,即使被對方猜出名字,其實也無須感到害怕。

「名まえなんかどうだっていいが、お察しのとおりぼくは子どもにちがいないよ。だが、二十面相ともあろうものが、ぼくみたいな子どもにやっつけられたとあっては、少し名折れだねえ。ハハハ……。」

小林少年は負けないで応しゅうしました。

「名字是甚麼也好,就如你所見一樣,我確實是個小孩。然而閣下身為二十面相卻被我這樣的小孩打敗,怎說也是有損名聲吧。哈哈!」小林也都不甘示弱。

「坊や、かわいいねえ……。きさま、それで、この二十面相に勝ったつもりでいるのか。」

「小子,你太天真了。你以為這樣就能打敗我二十面相嗎?」

「負けおしみは、よしたまえ。せっかくぬすみだした仏像は生きて動きだすし、ダイヤモンドはとりかえされるし、それでもまだ負けないっていうのかい。」

「我勸你還是不要嘴硬。難得偷回來的佛像變成活人,鑽石也得物歸原主。難道這還不算被打敗嗎?」

「そうだよ。おれはけっして負けないよ。」

「沒錯,我是絕對不會被打敗的。」

「で、どうしようっていうんだ!」

「那你想怎樣!」

「こうしようというのさ!」

「我就想這樣!」

その声と同時に、小林少年は足の下の床板が、とつぜん消えてしまったように感じました。

話還沒說完,小林感到腳下的地板突然消失了。

ハッとからだが宙にういたかと思うと、そのつぎのしゅんかんには、目の前に火花が散って、からだのどこかが、おそろしい力でたたきつけられたような、はげしい痛みを感じたのです。

小林嚇了一跳,感到身體懸浮半空,然後在緊接的瞬間眼冒金星,身體像被狠狠拍打似的感到劇烈疼痛。

ああ、なんという不覚でしょう。ちょうどそのとき、彼が立っていた部分の床板が、おとしあなのしかけになっていて、賊の指がソッと壁のかくしボタンをおすと同時に、とめ金がはずれ、そこにまっくらな四角い地獄の口があいたのでした。

真是大意失策!小林剛才站著的地板正好是陷阱所在。怪盜暗中按下牆上的按鍵,然後金屬的扣子鬆開,地板上就開了一個通往黑暗地獄的四方形入口。

痛みにたえかねて、身動きもできず、暗やみの底にうつぶしている小林少年の耳に、はるか上のほうから、二十面相のこきみよげな嘲笑がひびいてきました。

小林難忍痛楚,俯伏在黑暗的陷阱底下完全動彈不得。耳裡聽到遙遠上方傳來二十面相的歡愉嘲笑聲。

「ハハハ……、おい坊や、さぞ痛かっただろう。気のどくだねえ。まあ、そこでゆっくり考えてみるがいい。きみの敵がどれほどの力を持っているかということをね。ハハハ……、この二十面相をやっつけるのには、きみはちっと年が若すぎたよ。ハハハ……。」

「哈哈!小子,很痛吧!真可憐。你就在下面想想,想想你的對手有多厲害吧。哈哈!想打敗我二十面相,我看你還太年輕了!哈哈!」


第十部份完

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怪人二十面相(一.序章)
怪人二十面相(二.捕獸器)
怪人二十面相(三.是人?是魔?)
怪人二十面相(四.魔術師)
怪人二十面相(五.池塘中)
怪人二十面相(六.樹上的怪人)
怪人二十面相(七.壯二的下落)
怪人二十面相(八.少年偵探)
怪人二十面相(九.佛像的奇跡)
怪人二十面相(十.陷阱)

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